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東京高等裁判所 昭和54年(行ケ)76号 判決

事実及び理由

本願考案の要旨及び審決取消事由に関する原告の主張について検討する。

(一)  本願考案の要旨について。

1  成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書には、本願考案の目的について「本考案は、溶接により二軸方向に任意数を強固に連結してなり、しかも表面は概ね平面状を呈するとともに、表裏の溶接線を喰い違わせることにより、溶接による歪みや強度の低下を極力防止してなる連結板に関し、……」と記載されている(同号証第二頁第二ないし第六行)ことが認められるが、本願考案の連結板を船舶に利用した場合に海水の抵抗を無くして速度を高めることができるようにする旨の記載は見あたらない。また、本願考案における各水平段部の開始部とその隣りの素板の側端との溶接は、連結された各素板が一枚の鉄板と同様になるように、素板の表面に対して凹凸なく、平になるように施行されている旨の記載も見あたらない。

2  本願明細書をみるかぎり、原告主張の理由によつて、本願考案における各水平段部の開始部とその隣りの素板の側端との溶接は、連結された各素板が一枚の鉄板と同様になるように、素板の表面に対して凹凸なく、平になるように施行されているものであつて、本願考案の要旨は右のとおりに解すべきもの(または、右が本願考案の要旨の一部をなすもの)である、とすることはできない。

3  もつとも、原告の主張の細部に拘泥することなく、本願考案における各水平段部の開始部とその隣りの素板の側端との溶接個所についてみるに、右溶接個所はわざわざ凹凸を形成して溶接すべき個所ではないから、通常の施行の際には、右の個所は凹凸なく溶接されるであろうとは考えられる。

(二)  引用例一について。

1  その成立に争いがなく弁論の全趣旨により審決引用の刊行物と認められる甲第三号証によれば、引用例一には重ね溶接継手の一種類として深い片面せぎりが図面と共に記載されていることが認められ(同号証第三一〇頁表7.10のうち重ね溶接継手―深い片面せぎりの項)、右図面によれば、深い片面せぎりは板の端縁を大略板厚に相当する分だけ沈下させて水平段部を形成し、これに他の板の端縁を重ね、一方の板の水平段部の開始部と他方の板の端縁及び一方の板の水平段部の先端部と他方の板の裏面とをそれぞれ溶接するものであることが読みとれる。

2  右甲第三号証によれば、引用例一に記載された図面からは、原告が主張するように、一方の板の水平段部の開始部と他方の板の端縁との溶接が、溶接個所に凹部を生ずるような方法で施行されているかのようにみられなくもないが、(1) 同図は、それ自体から明らかなとおり、もともと説明図であつて設計図のように細部まで正確に記載されたものではないこと、及び、(2) 前記(一)の3に示したと同じように、右溶接個所はわざわざ凹部を形成する必要がある個所ではないこと、をあわせ考えれば、引用例一における右溶接個所は積極的に凹部を形成させるものであるとは解されず、当業者の技術常識からすれば、むしろ凹凸なく平らに溶接するものであるとみるのが自然である。

3  右のとおり、引用例一のものは、水平段部の開始部に相当する個所と溶接相手の部材の端部との溶接が、溶接個所に凹部が生ずるような方法で施行されているものとはいえないのであるから、審決が、引用例一には深い片面せぎりとして本願の連結板に適用されたものと同様な溶接継手が記載されていると認定したことに誤りはないといわなければならない。

(三)  船舶の甲板等平坦で大きなものを溶接によつて作る場合、一定寸法の素板を適数枚互に溶接する方法が当該技術分野で慣用手段であるか否かについて。

1  成立に争いのない乙第一号証によれば、同号証は本願出願の一〇年以上前に出版された鋼船関係の通常の刊行物であり、それには、ブロツク継手の縦、横縁の溶接順序を説明する図面(同号証第一四八頁の第3.40図)に、一定寸法の板を複数枚(図面では九枚)並べて溶接することが示されているものと認められる。

2  同じく右乙第一号証には、溶接構造物の変形を防止する方法の説明中の図面(同号証第一七一頁の第3.73図)に一定寸法の板を複数枚(図面では五枚)並べて溶接したものが示されているものと認められる。

3  成立に争いのない乙第二号証によれば、同号証は本願考案の出願前に発行された特許公報であり、それには、鋼板製のプールを製作する場合、一定寸法の板を複数枚(同号証の第1図及び第4図では三二枚)並べて溶接することが示されているものと認められる。

4  そして、右2及び3各認定の事実によれば、船舶の甲板等平坦で大きなものを溶接によつて作る場合、一定寸法の素板を適数枚互に溶接する方法は、本願考案の出願当時当該技術分野で慣用手段であつたとみるのが相当である。

(四)  素板の端部に切込みを設けることは、二軸方向に配列した際連結板の余剰部分として除く必要から従来通常行われている事項であるか否かについて。

1  成立に争いのない乙第三号証によれば、同号証は本願考案の出願前に出版された建築材料・工法のハンドブツクであり、それには、端部に切込みを設けた瓦が図示されている(同号証の第一八六頁図4.4.2和形がわらの形状各種のうち桟がわら及びのきそでがわら)ことが認められ、四角形の瓦を前後左右にふくために、重なり合う端部に切込みを設けているものが従来から存在したことが認められるが、右の事実は本願考案の溶接を施こした連結板とは、技術分野を異にする瓦に関するものであるから、右の証拠からただちに素板の端部に切込みを設けることは従来通常行われている事項であるとはいい難い。

2  しかしながら、前記甲第三号証によれば、引用例一に記載されている深い片面せぎりは従来から行われている重ね溶接継手の一種類であると認められるところ、この溶接手段によつて前記(三)に認定した慣用手段にあるように板を前後左右に並べて重ね溶接を行う場合は、板の端部に切込みを設けないと行いえないことが明らかであり、また、技術分野を異にするとはいえ、四角形の素材(かわら)を前後左右に連続して広い面積のもの(屋根)を構成する場合にその素材の端部に切込みを設けることが通常のこととして行われていたことをみれば、深い片面せぎりによつて板を前後左右に並べて溶接する際には、従来から、板の端部に切込みを設けていたものと推測するに難くない。

3  したがつて、この点についての審決の認定が誤つているとはいえない。

以上によれば、審決には原告主張の点等において、これを取り消すべき違法はなく、原告の請求は理由がないといわなければならない。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

1  「互に隣り合う側縁と端縁を、板厚に相当する分だけ沈下させて水平段部(2)(3)を形成するとともに、その側縁の水平段部(2)の両端部を、概ね各水平段部(2)(3)の幅に等しい切込片(4)(5)をもつて直角L状に切込んでなる四角形の素板(1)適数を、同方向として側方へ配列し、第一の素板(1)の側方の水平段部(2)上に隣りの素板(1a)における水平段部(2a)と反する側の側縁(6a)を乗せ、第一の素板(1)の表面における水平段部(2)の開始部と、隣りの素板(1a)の側縁(6a)並びに第一の素板(1a)水平段部(2)の側端面と、隣りの素板(1a)の裏面とをそれぞれ溶接(8)(9)し、かくして形成された第一列の素板(1)(1a)……の前端縁(7)(7a)……の下側に、第二列の素板(1A)……の端縁における水平段部(3A)……を重合し、前述したと同じ要領をもつて表裏を溶接(10)(11)してなる連結板。」(別紙図面参照)

2  そして、本願考案は、連結板の表面を平坦にして、これを船舶に利用した場合に海水の抵抗を無くして速度を高めることができるようにすることをもその目的の一つとしているため、右要旨における各水平段部の開始部とその隣りの素板の側端との溶接は、連結された各素板が一枚の鉄板と同様になるように、素板の表面に対して凹凸なく、平になるように施行されているものである。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

第1図

<省略>

第2図

<省略>

第3図

<省略>

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